「健診で血圧や血糖を指摘されたのに放置しているのは自己責任」「生活習慣病は本人のだらしなさ」。職場でこうした空気があると、当事者は受診や相談をためらい、結果として重症化リスクが高まります。
しかし高血圧・糖尿病は、個人の意志だけでは説明できません。健康は“働き方”や“職場の仕組み”に強く影響されます。職場要因を見直すことは、従業員の健康だけでなく、欠勤・休職、プレゼンティーズム(出勤しているがパフォーマンスが落ちる状態)、医療費の増加を防ぐ経営課題でもあります。
目次
高血圧・糖尿病は「身近な疾患」になっている
厚生労働省「令和5年(2023年)国民健康・栄養調査結果の概要」では、「糖尿病が強く疑われる者」の割合は男性16.8%、女性8.9%と報告されています。さらに、収縮期血圧の平均値は男性131.6mmHg、女性126.2mmHgで、収縮期血圧140mmHg以上の割合は男性27.5%、女性22.5%です。
食塩摂取量も、平均9.8g/日(男性10.7g、女性9.1g)とされ、減塩が進みにくい現状が示されています。
これらは、「本人が気をつければよい」という一言で片付けられない規模の健康課題です。
なぜ職場環境が高血圧・糖尿病に影響するのか
①長時間労働が睡眠不足・疲労蓄積を招く
長時間労働は、睡眠不足や休息・余暇の制限を通じて疲労を蓄積させ、心身の負担を増やします。厚生労働省の資料でも、長時間労働が脳・心臓疾患に影響する理由として、睡眠不足、休息の制限、ストレス負荷の増大などが整理されています。
睡眠不足は食欲調整や代謝にも影響し、結果として体重増加や血糖悪化に結びつきやすくなります。
②夜勤・交代勤務は体内時計を乱し、代謝を崩す
交代制勤務では、睡眠と概日リズム(体内時計)が乱れやすく、心血管疾患や高血圧との関連が指摘されています。
糖尿病についても、糖尿病診療ガイドラインの発症予防の章で、睡眠や就寝時刻、交替制勤務(夜勤)と発症リスクの関連が論じられています。
「食事の時間が毎日バラバラ」「夜間に高カロリーをとりやすい」「運動の機会が減る」など、個人の努力以前に“構造的に不利な条件”が揃いやすいのが夜勤の特徴です。
③職場ストレスは血圧・血糖に作用する
世界保健機関(WHO)は、職場ストレスが疾病リスクに関係し得る点を含め、健康の社会的要因(Social Determinants of Health)の重要性を示しています。また研究では、いわゆる「仕事の負担が高い/裁量が低い」などの職業性ストレス(ジョブストレイン)と高血圧リスクの関連が報告されています。
ストレスが高い環境では、睡眠・飲酒・喫煙・過食などの行動にも波及しやすく、結果として血圧・血糖の悪化が“連鎖”しやすくなります。
④職場の食環境が「高塩分・高エネルギー」に偏りやすい
忙しい職場ほど、食事は「早く・安く・簡単に」になりがちです。外食・コンビニ・社食のメニュー構成、会議の菓子、差し入れ文化などが重なると、本人が気をつけているつもりでも塩分やエネルギーが過剰になりやすい。平均食塩摂取量が高止まりしている事実は、環境要因の影響を考える材料になります。
⑤座りっぱなし・移動の少なさが「運動不足」を固定化する
在宅勤務やデスクワーク中心の働き方では、意識しない限り歩数が稼げません。運動は「やる気」だけでは成立しにくく、休憩の取り方、会議設計、移動導線など、職場の仕組みが大きく関係します。
「個人の努力」だけでは限界:企業ができる一次予防
職場環境を変えることは、本人の行動変容を“支える土台”になります。ポイントは、健康施策を「啓発」だけで終わらせず、働き方・制度・環境の設計に踏み込むことです。
取り組み例(すぐに着手しやすい順)
- 長時間労働の是正:繁忙の平準化、応援体制、業務棚卸し、会議削減、終業後の連絡ルール整備
- 夜勤・交代勤務の負担軽減:勤務間インターバル、連続夜勤回数の設計、仮眠環境の整備、健康リスクが高い人の配置配慮
- 食環境の改善:減塩メニューの見える化、野菜・たんぱく質が取りやすい選択肢、飲料の糖分表示、夜勤帯の食の選択肢確保
- 運動機会の“組み込み”:短時間のアクティブ休憩、階段利用の導線、歩く会議、ストレッチの標準化
- ストレス対策の実装:ストレスチェックを「実施して終わり」にせず、集団分析→職場改善へつなげる
- ストレスチェック制度は、検査の実施や医師面接などを含む枠組みとして運用が示されています。
- ストレスチェック制度は、検査の実施や医師面接などを含む枠組みとして運用が示されています。
産業医・産業保健が介入すると、何が変わるか
高血圧・糖尿病を「本人の問題」に閉じ込めないために、産業医・保健師ができることは大きく3つです。
- リスクの見える化:健診データ、受診状況、残業時間、夜勤回数、部署特性を組み合わせて“職場由来のリスク”を把握
- 就業上の配慮の設計:治療継続(通院)と業務の両立、夜勤や重責業務の調整、休憩確保などを具体化
- 職場改善への翻訳:本人への保健指導だけでなく、管理監督者・人事へ「変えるべき環境」を提案し、再発を防ぐ
「個人への指導」だけでは再発します。環境を変える介入が入ると、職場全体のリスクが下がり、結果として当事者も動きやすくなります。
高血圧・糖尿病のある従業員への実務対応(現場で困りやすい点)
- 受診勧奨の伝え方:叱責や評価と切り離し、「健康確保のための業務上の必要」として整理する
- 情報の扱い:病名や検査値は要配慮個人情報。本人同意の範囲で共有し、目的外利用をしない
- 通院と業務の両立:通院時間を確保できる勤務調整、繁忙期でも外しにくい業務の代替設計
- 夜勤・長距離運転・高所作業など:低血糖リスク(治療内容による)や合併症状況を踏まえ、主治医意見も参考に就業判定
産業医面談が入ることで、「何をどこまで配慮するか」を会社として言語化しやすくなります。
本人ができることもある。ただし“責める”のではなく“守る”視点で
本人側の対策は重要です。ただし前提は「意思が弱いからできない」ではなく、環境の制約下でも再現しやすい方法を一緒に選ぶことです。
- 血圧は家庭・職場でも測る:健診や診察では正常でも、職場などで高くなる「仮面高血圧」があるため、家庭や職場での測定が勧められています。
- 睡眠を最優先の健康行動にする:睡眠不足は食欲・代謝・ストレス耐性に波及
- 食事は“減らす”より“選び方”:夜勤時は特に、食事のタイミングと内容を単純化して崩れにくくする
- 受診のハードルを下げる:通院しやすい勤務設計があって初めて継続できる
まとめ ~高血圧・糖尿病対策は「職場づくり」で成果が出る~
高血圧・糖尿病は、本人の努力だけで決まる病気ではありません。長時間労働、夜勤、ストレス、食環境、運動機会など、職場の設計がリスクを押し上げたり下げたりします。だからこそ、企業が環境に介入する意義があります。
株式会社NoLaBoの産業保健サービスでは、健診結果の活用から、面談・就業配慮、職場改善提案まで、現場で回る形に落とし込む支援が可能です。
「指導しても変わらない」「再検査が増えている」「夜勤者の数値が悪い」などのお困りごとがあれば、職場要因の視点で一緒に整理していきましょう。
株式会社NoLaBoが提供する産業保健サービス
弊社はメディカルフィットネス事業と産業保健サービスを主軸にし、「健康と運動を通してたくさんの人を幸せにする」ための事業展開をしております。
厚生労働省認定のメディカルフィットネスで医学的な運動食事指導を、産業医、産業看護職、リハ職などが一つのチームとなり顧問先企業をサポートする、日本で唯一の産業保健サービスが行える企業でございます。

略歴
2013年 旭川医科大学医学部医学科卒業、医師免許取得。
脳神経外科学、救急医学をベースに大学での臨床研究や多くの手術症例を経験。
より多くの人を幸せにするため2021年2月、株式会社NoLaBoを設立。
- 2021年8月 エターナルフィット西町南 開業
- 2022年11月 エターナルフィット厚別 開業
- 2024年7月 エターナルフィット円山 開業
- 救急科専門医
- 産業衛生専攻医
- 脳神経外科専門医
- 脳卒中専門医
- 脳血管内治療専門医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 産業医
- 労働衛生コンサルタント
- 健康経営エキスパートアドバイザー
- 健康運動指導士
- 公認パーソナルトレーナー(NSCA-CSCS/CPT)
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