脳卒中専門医として長く働いていましたが、「全く右半身が動かない」「明らかにろれつが悪い」などの症状があれば、すぐに病院受診が必要です。しかし、「めまいがする」「ふらふらする」「血圧がいつもより高い」など、いわゆる微妙な症状で受診する人のほうが多いのが現状です。しかし、そんな症状の中にも脳卒中が隠れていることがあり、きちんと診察、検査するまでは否定することはできません。
本日は「脳卒中の前兆とは?見逃してはいけないサインと早期対策」をテーマに記事を作成しました。覚えておけば今日から使える知識なので、ぜひ最後までご覧ください!
目次
脳卒中とは?種類と発症メカニズムを解説
脳卒中とは、脳の血管が詰まる・破れることで脳細胞がダメージを受ける疾患の総称です。大きく分けて以下の3種類があります。
- 脳梗塞:血管が詰まり、脳へ血流が届かなくなる(約70%の割合)。
- 脳出血:血管が破れ、脳内に出血が広がる。
- くも膜下出血:脳動脈瘤が破裂し、脳を包む膜の下に出血が起こる。
いずれのタイプも発症すると時間との戦いになります。早期に対応することで後遺症を軽減し、命を守ることができます。
脳卒中の前兆:このサインを見逃すな!
脳卒中は突然発症するイメージがありますが、実は前兆が現れることがあります。代表的なものを紹介します。
脳梗塞の前兆(TIA:一過性脳虚血発作)
一過性脳虚血発作という言葉は聞きなれないと思いますが、いわゆる脳梗塞の一歩手前の状態です。心臓で例えると、心筋梗塞の一歩手前を狭心症といいます。
脳梗塞の前触れとして、数分~数時間で回復する「一過性脳虚血発作(TIA)」が起こることがあります。これは一時的に脳の血流が悪くなることで発生します。
主な症状:
- 片側の手足のしびれや力が入らない
- 片方の顔のゆがみ(口元が下がる)
- ろれつが回らない、言葉が出にくい
- 片目が一時的に見えなくなる(黒い幕がかかったような視野障害)
- フラつく、歩きにくい、めまいがする
この症状が数分~数時間で回復しても安心してはいけません。TIAの後、数日~数週間以内に本格的な脳梗塞を発症するリスクが高いため、すぐに受診が必要です。
脳出血・くも膜下出血の前兆
脳出血やくも膜下出血の場合、前兆として以下のような症状が現れることがあります。
- 突然の激しい頭痛(今までに経験したことがない痛み)
- 吐き気・嘔吐を伴う頭痛
- 意識がぼんやりする、呼びかけに反応しにくい
- 首のこわばり(くも膜下出血の場合)
- けいれん発作を伴うこともある
特に「バットで殴られたような頭痛」はくも膜下出血の典型的な症状です。このような症状が出た場合は、直ちに救急車を呼ぶべきです。
前兆を感じたらどうすればいい?緊急対応と受診の目安
脳卒中の前兆を感じたときは、すぐに行動することが重要です。
FASTテスト:脳卒中の簡易チェック
脳卒中の症状があるかどうかを判断するために、「FASTテスト」を試しましょう。
- F(Face)顔のゆがみ → 片側の口元が下がっていないか?
- A(Arms)腕の麻痺 → 両腕を前に伸ばしたとき、片方が下がってこないか?
- S(Speech)言葉の異常 → ろれつが回らない、言葉が出にくい?
- T(Time)時間 → 1つでも異常があればすぐ救急車を!
受診の目安と対処法
- TIA(脳梗塞の前兆)を感じたら → すぐに脳神経内科を受診。
- 激しい頭痛・嘔吐・意識障害がある場合 → 迷わず救急車を呼ぶ。
- 自力で歩けるからといって放置しない!
脳卒中は「時間との勝負」。前兆を感じたら、一刻も早く医療機関を受診しましょう。
脳卒中を予防するための生活習慣とリスク管理
脳卒中の予防には、以下のポイントが重要です。
生活習慣の改善
- 塩分・脂質を控えた食事(高血圧・動脈硬化を防ぐ)
- 適度な運動(週に150分以上の有酸素運動が推奨)
- 禁煙・節酒(喫煙は脳卒中リスクを2倍以上に)
- 適正体重を維持(BMI25未満が理想)
リスク因子の管理
- 高血圧:血圧140/90mmHg未満を目標に
- 糖尿病:HbA1c 6.5%未満を維持
- 高コレステロール:LDLコレステロールを低下させる
特に、高血圧は脳卒中の最大の危険因子。定期的な血圧測定と降圧薬の服用を徹底しましょう。
まとめ:前兆を知って早期発見・予防につなげよう
脳卒中の前兆は、一過性脳虚血発作(TIA)や突然の頭痛・めまいなど、多くのケースで事前に現れます。
- 脳梗塞の前兆:手足のしびれ、言語障害、一時的な視力低下
- 脳出血・くも膜下出血の前兆:激しい頭痛、吐き気、意識障害
前兆を感じたら、迷わず医療機関を受診することが重要です。また、日頃から生活習慣を整え、脳卒中のリスクを減らすことが予防につながります。
あなたや大切な人の命を守るために、今からできることを始めましょう!
参考サイト
・厚生労働省「脳卒中ってなあに?」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202410_006.html
・脳卒中ガイドライン2021[改定2023]