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産業医が「役立たず」と言われる実態
「うちの産業医、ただ面談するだけで何もしてくれない役立たずだ!」「相談しても、何の解決にもならなかった」
こんな声を、ネット上や企業口コミサイトなどで見かけることは少なくありません。
実際、企業のメンタル不調者対応や過重労働の管理の場面で、産業医の存在が“ただの形式的なもの”に感じられるケースも多いのが現状です。
多くの人が「役立たず」と感じる理由としては以下が挙げられます:
- 面談内容が浅く、具体的なアドバイスが得られない
- 会社にとって都合の良い判断しかしない
- 社員の味方というよりも「企業の監視役」のような存在
これらは単なる産業医個人のスキルやモチベーションの問題だけではなく、制度上の制約や職場文化が深く関係しています。
産業医の本来の役割と制度の理解
まず押さえておきたいのが、産業医は労働安全衛生法に基づいて選任される存在であり、主な役割は以下の通りです。
- 定期的な職場巡視(少なくとも月1回)
- 健康診断結果の確認と指導
- メンタル不調者や長時間労働者との面談
- 労働環境改善の提案
また、企業は従業員50人以上になると産業医の選任が義務化されます。
とはいえ、企業によっては「とりあえず義務だから」と契約だけして、名ばかり産業医になっているケースも少なくありません。
つまり「制度としては機能するはずの仕組み」が、現場でうまく活かされていないのです。
なぜ「うまく機能しない」のか?構造的な課題
産業医がうまく機能しない理由には、いくつかの構造的課題が存在します。
勤務日数や権限の制限
多くの産業医は週に1回、あるいは月に数回しか出社しません。そのため、職場の実情を把握する時間がそもそも足りないのです。
また、医師でありながらも企業の人事制度に直接関与できないため、改善の提案をしても実行されないことも多いのが現実。
本音を話せない職場文化
従業員にとっても「産業医に話した内容が人事に筒抜けになるのでは」という不安があり、本音を話せないことも。
信頼関係が築かれていないままでは、どれだけ専門知識があっても形だけの面談に終わってしまいます。
機能する産業医の条件と企業の取り組み事例
一方で、「この産業医は頼りになる」と言われる存在も、確実に存在します。
現場に寄り添う姿勢
例えば、社員との面談に時間をかけ、しっかりと話を聞く産業医は信頼されやすいです。
また、職場を細かく観察し、問題の兆候を早期に察知する「現場力」を持った医師も高く評価されます。
企業との連携ができている
さらに、人事・管理職との情報共有や、産業保健スタッフ(保健師など)との連携があると、産業医の提案が実行されやすくなります。
実際に、うつ病による休職者を減らした企業や、過重労働対策に成功した事例もあり、こうした企業では産業医が“活かされる仕組み”が整っています。
産業医を“活かす”ために個人と企業ができること
では、「役立たず」と嘆くだけでなく、産業医を“本来の意味で”活かすために何ができるのでしょうか?
社員ができること
- 面談時に具体的な悩みや状況をしっかり伝える
- 不満があっても建設的なフィードバックを伝える
- 産業医を「敵」ではなく「相談相手」として見る意識の転換
企業が変えるべきポイント
- 産業医の勤務頻度や情報共有体制の見直し
- 管理職への産業保健教育の実施
- 産業医の提言を制度に反映させる仕組みづくり
こうした取り組みがあって初めて、産業医が“ただの義務”ではなく“健康経営のパートナー”として機能するようになるのです。
まとめ~産業医は「役立たず」ではなく“活かし方”がカギ~
産業医が「役立たず」と感じられる背景には、制度上の限界や企業文化、現場とのミスマッチなど複雑な要因が絡み合っています。
しかし、産業医本来の役割を理解し、企業と個人の両方が歩み寄ることで、
「頼りになる存在」に変わる可能性は大いにあります。
一方的に「意味がない」と切り捨てるのではなく、産業医を“どう活かすか”という視点で見直すことが、これからの健康経営において非常に重要です。