2019年の「働き方改革関連法」施行により、企業における産業医・産業保健機能の強化が求められています。
この法令に基づき、企業は、各事業場で常勤する従業員の人数に応じて、産業医を選任することが義務付けられました。
とはいえ、
産業医とは一体なに?
必要性がわからない
という方も多いでしょう。
そこで、産業医に関する情報をわかりやすくご紹介していきます。今後の産業医を選びのために、ぜひ参考にしてください。
産業医とは

産業医とは、職場で働く従業員の健康管理を行う医師です。職場の安全や従業員の健康を守るため、専門的な立場から従業員に対し指導・助言を行う重要な役割を担っています。
例えば、職場巡視により労働環境の問題点をチェックしたり、健康診断の結果をもとにアドバイスしたりと、産業医の業務は多岐に渡ります。
産業医になるためには医師免許に加え、以下の資格要件のいずれかを満たす必要があります。
業医は大きく分けて「嘱託産業医」「専属産業医」の2つの区分があります。
- 嘱託(しょくたく)産業医
- 開業医や勤務医が診療業務と兼務して働く産業医のこと。常時50~999名の事業場に、非常勤で勤務する点が特徴。
- 専属産業医
- 複数の事業場を掛け持ちせず、特定の企業に常駐する産業医のこと。一般的に、常時1,000名以上、または有害業務かつ500名以上の事業場に配属される。
産業医の雇用形態や勤務条件は、事業場の従業員数・作業内容に応じて決まります。
なお、労働衛生法により、企業は事業場で働く従業員数に応じて、産業医を選任するよう義務付けられています。企業が産業医を雇う基準については、後段で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。

産業医に求められる能力
産業医として活躍するためには、医師免許の保持と資格要件を満たすことが大前提ですが、それだけでは不十分です。産業医には、コミュニケーション能力と問題解決能力も求められます。
産業医は、従業員との面談を通して適切なアドバイスや休職・復職判断などを行います。この時、従業員の職場環境や健康課題を把握するには信頼関係が不可欠です。
コミュニケーション能力に問題がある産業医の場合、上手く意思疎通ができず、従業員との間にズレが生じたりトラブルが発生したりする可能性があります。
また、職場環境や健康管理の問題点を企業に報告し、改善策を提案・実行してもらうためには、説得力のある説明が求められます。従業員の意見に偏りすぎることなく、企業と従業員の双方にとって最善の解決策を模索し、導き出す力が必要です。

産業医が活躍する場所
産業医が活躍する場所は、所属する企業の事業場です。なお、事業場とは、労働安全衛生法で定義されているように、「同一の住所で従業員が働いており、組織として独立して業務を行っている場所」を指します。

具体的には、工場、事務所、店舗、建設現場など、労働者が集団で作業を行う場所が該当します。各事業場で従業員の健康を守り、快適な労働環境づくりに向けた活動を実施することが産業医の役割です。
産業医の仕事と業務内容
産業医は、通常の医師や臨床医のように診療や処方などの医療行為は行いません。産業医の役割は、従業員が心身ともに健康で快適に働けるよう、専門知識を活かして指導や助言を行うことです。
産業医の職務は、労働安全衛生規則第14条第1項に基づき、次のように定められています。
- 健康診断の結果チェックと、それに基づく必要な対応
- 面接指導およびその結果を踏まえた必要な措置
- ストレスチェックの実施、高ストレス者への面接指導とその後の対応
- 作業環境の維持と管理
- 作業内容の管理
- 上記以外の、従業員の健康管理全般
- 健康教育や健康相談を通じた従業員の健康増進
- 衛生教育の実施
- 健康障害の原因調査と再発防止策の立案
上記に加え、月に1回の職場巡視、衛生委員会への参加、長時間労働者に関する情報把握なども産業医の業務に含まれます。以下では、弊社の産業医の具体的な仕事と業務内容について、詳しく紹介しています。

従業員の健康診断の結果チェックと事後フォロー
産業医は、従業員の健康診断の結果チェックと、その後のアドバイスやフォローを行うのが仕事です。
企業は、従業員に対し定期的に健康診断を行うよう義務付けられています。しかし、健康診断は、受けて終わりではありません。 健康診断の結果をもとに、労働者が就労できる健康状態かどうかを判断することが重要です。健康上の問題を抱える従業員に対し、受診勧奨や保健指導を実施することも、産業医の業務に含まれます。
また、産業医は異常所見があった従業員への保健指導、就業措置の必要性について、事業所へ助言する役割があります。なお、従業員に対しての就業措置には、以下のものがあげられます。
従業員の治療と仕事の両立支援
治療と仕事の両立に向けたサポートも、産業医の仕事です。
近年、治療が必要な病気に罹患していても、労働を希望する従業員が増えています。治療を続けながら働く従業員を雇用している場合、業務内容や労働時間に何らかの配慮が必要となる可能性があります。
このような従業員について、産業医は医師の立場から就労可否、就業環境・条件の整備について助言を行います。その結果、病気治療のため休職や退職を選んでいた従業員の就業継続が期待でき、人材確保や定着につながります。
なお、治療と仕事の両立支援が必要な病気には、以下のような特徴があります。
月に一度の職場巡視
産業医の仕事内容には、事業場や作業場などの巡視があります。産業医を雇用する企業は、労働安全衛生規則に則り、職場巡視を原則毎月1回実施しなければなりません。
職場巡視は、安全で快適な職場づくりが目的です。衛生面や作業環境に問題はないか、危険な箇所はないかをチェックし、問題が見つかった場合は改善するための措置を講じます。また、衛生委員会への報告、記録の作成・保管も行います。
産業医による職場巡視のチェックリストの一例は、次の通りです。
【一般作業者についてのチェックリスト】 | ||
---|---|---|
安全管理 | 作業環境 | 作業スペースや道具の設置状況が適切か、階段や通路に危険箇所がないか、長時間のパソコン業務(VDT作業)は適切に管理されているか |
商品の積み上げ | 高さが規定内か、スプリンクラーとの間隔が確保されているか、落下防止策があるか | |
消防・避難設備 | 消火器や非常口を妨げる物がないか | |
配線・備品管理 | 電気コードや什器が安全かつ整然と設置されているか | |
衛生管理 | 環境管理 | 温度、湿度、換気口、照明などに異常がないか |
害虫・害獣対策 | 害虫・害獣発生防止、巣穴の確認、残飯処理の徹底 | |
ゴミ管理 | 分別回収やゴミ箱管理が適切か | |
快適性 | 粉塵、騒音、排気ガスの問題がないか、分煙化が図られているか |
従業員のリスク管理
産業医には、以下のような従業員のリスク管理を担う役割があります。
ストレスチェック制度は、安全衛生法の改正により2015年12月から特定の事業場で実施が義務付けられている制度です。50人以上の従業員が働く事業場では、年に1回のストレスチェックが義務化されています。この制度は、労働者のメンタルヘルスの不調を未然に防ぐものです。産業医は、ストレスチェックの計画・実施・結果の評価に関わります。
ストレスチェックの結果、高ストレスにより面談指導が必要、かつ面談指導を希望した従業員に対し、産業医が面談指導を行います。面談時の聴取結果に応じて、労働時間の短縮や休職など、就業上の措置・配慮を事業者に提案します。
また、長時間労働者への面談指導も産業医の仕事です。長時間労働は、メンタルヘルスの不調、脳・心臓疾患といった健康障害のリスクが高まります。これらのリスクを防ぐために、産業医は面談を通じ、長時間労働をした従業員に対して事後措置を講じます。
休職・復職・退職については、対象者と面談を行い、心身の状態を確認したり、企業に意見書を作成し提出するなどの対応を行います。企業は、産業医の意見をもとに最終的な判断を下します。

衛生委員会への出席
衛生委員会・安全委員会への出席も、産業医の役割のひとつです。産業医は衛生委員会・安全委員会の構成員として出席し、専門的な立場から助言や提言を行い、職場環境の改善や従業員の健康維持を図ります。
そのほか、従業員の健康や衛生に関する知識向上のため、数分程度の衛生講話(研修)を実施するのも産業医の業務です。
常時50名以上の従業員が勤務する事業場では、業種に関わらず衛生委員会の設置と毎月の開催が必要です。製造業など、特定の事業においては安全委員会の設置も求められます。
医師と産業医の違い

産業医は医師免許を持ちますが、その役割や仕事内容は、通常の臨床医(医師)と大きな違いがあります。
臨床医は、ケガや病気の診断、治療を中心とした医療行為を行います。患者の症状を詳しく聞き取り、検査を実施しながら症状の原因を特定し、その診断結果をもとに適切な治療を提供します。臨床医の主な活動場所は、病院やクリニック、リハビリ施設などです。

一方、産業医は従業員を対象に健康管理や職場管理を行います。従業員の病気、メンタルヘルスの不調などを予防し、健康を維持することが目的です。産業医の主な活動場所には、企業や工場、官公庁などがあげられます。
また、産業医は事業主への勧告権を有しており、必要に応じて従業員の健康や安全に関する勧告が可能です。産業医から勧告を受けた事業主は、その内容に沿った対応が求められます。
臨床医と産業医の違いについては、以下の表にまとめています。ぜひ、参考にしてください。
項目 | 医師 | 産業医 |
---|---|---|
目的 | 病気・ケガの治療 | 従業員の健康管理、労働環境の整備・改善 |
対象者 | 患者 | 職場の従業員 |
活動場所 | 病院、クリニック、診療所など | 企業、工場、官公庁など |
主な事業 | 診断・治療など | 健康診断の結果に応じた処置、メンタルヘルス、労働環境の改善など |
資格 | 医師免許 | 医療免許と、産業医の資格要件 |
国内の産業医の状況
日本医師会の資料によると、令和4年度の認定産業医の総数は死亡・失効なども含めて約10万7,000人、そのうち有効者の数は約7万人です。平成2年の制度発足以降、産業医の数は増加傾向にあります。

ただし、認定産業医の資格を有する者のうち、実際に稼働している割合は48.7%と、半数をわずかに下回る結果となりました。

産業医の活動形態の割合は、属託産業医が最も多く約71%という結果でした。また、属託産業医のうち約7割は、1~2社の企業から委任されています。

なお、産業医の選任が必要な法人数は、2021年時点で9万8,000件以上に上ります。

以上を踏まえると、日本において産業医の数は約7万人と増加傾向にあるものの、稼働率は低いことがわかりました。また、産業医の選任が必要な法人数に対し、産業医の数は不足しています。
企業が産業医を雇う基準
産業医の選任は、「労働安全衛生法(第13条)」「労働安全衛生法施行令(5条)」によって定められています。必要な産業医の人数や雇用形態は、事業場で働く従業員の人数によって異なります。
従業員数 | 産業医の数・雇用形態 | |
---|---|---|
通常の事業場 | ※有害物質を取り扱う業務 | |
50名未満 | 選任義務なし | |
50〜499名 | 嘱託産業医が1名以上 | |
500〜999名 | 嘱託産業医が1名以上 | 専属産業医が1名以上 |
1.000〜3,000名以下 | 専属産業医が1名以上 | |
3,001名以上 | 専属産業医が2名以上 |
産業医の選任は、その義務が発生してから14日以内に産業医の選任と、所轄の労働基準監督署への届出が必要です。
※下記のような有害物質を取り扱う業務で、常時500名以上の従業員がいる事業場では専属の産業医を選任する必要があります。
企業にとって産業医がいるメリット
産業医の選任が必要とはいえ、自社にとって具体的にどのようなメリットがあるのか疑問を持つ方も多いでしょう。産業医の選任によって得られる主なメリットには、以下の4つがあげられます。
産業医が担う役割は、産業医の健康診断後の結果チェックやフォロー、長時間労働への対応、メンタルヘルスチェックの実施など、多岐に渡ります。これらの活動によって、従業員の健康意識が向上し、生活習慣病の予防と改善につながります。従業員のメンタルヘルス対策、健康不調への早期対応も期待できるでしょう。
さらに、産業医による職場巡視により、安全で快適な職場環境になれば、従業員の集中力やモチベーションが上がり、企業全体の生産性の向上にもつながります。

企業にとって産業医がいるデメリット
さまざまなメリットがある一方、産業医の選任には以下のようなデメリットもあります。
産業医の選任に伴うデメリットには、産業医を雇用する際の経済的なコスト、さらに産業医を探して契約するまでにかかる労力や時間的なコストがあげられます。
産業医の質や稼働状況によっては十分に機能せず、その結果、効果が得られずに無駄になる場合もあります。
例えば、自社の業務内容や職場環境が産業医の専門分野と合致していない場合、期待する成果を得られない可能性が高いです。複数の企業と契約している産業医の場合、忙しさを理由に自社への訪問頻度が少なくなることも懸念されます。
このような状況では、産業医の役割が形骸化してしまうリスクが考えられるのです。
企業が産業医を選ぶためのポイント
産業医を選ぶ際は、自社の業務や職場環境を理解しているかが重要なポイントです。例えば、製造業であれば作業環境の問題解決に向けた行動ができる産業医が求められます。
また、IT企業やサービス業の場合には、長時間のパソコン作業(VOD作業)による疾患、メンタルヘルス対策に精通した産業医が適しているでしょう。自社の業務の特性を整理・確認し、それに見合った産業医を探すことが大切です。
また、企業が産業医を選ぶ際、コストや条件の良さに注力してしまうかもしれません。しかし、産業医には、専門知識やスキル、コミュニケーション能力、問題解決能力などの能力も必要です。
コストや条件に捉われず、総合的に判断したうえで自社に適した産業医を見つけましょう。
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最後に、弊社が産業医として関わるお客様の紹介をします。
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